~血統ウェーヴ~

直系統に囚われない血統解釈で競馬の本質に迫る

ディープインパクトの真実

ディープインパクトが死んだ。

今年殆ど種付けをしていなかったことは知っていたが、まさかそこまで具合が悪いとは思ってもいなかったので喪失感は大きい。

一般のニュースでその死が報じられるほどの影響力のある名馬であるから、その現役時代や種牡馬としての実績に対して一部の競馬ファンからはアンチ的な評価を受けることがあるのも宿命なのかもしれない。

私自身は、ディープインパクトの熱狂的ファンでもアンチでもない。これから書くことは主に私独自の血統観から得た、稀代の歴史的名馬の印象だ。

サラブレッドの競走能力を評価するときに最もよく使われる表現は「強い」であろう。

昔(といっても数年前だが)民放でフランスの凱旋門賞を中継したときにキャスターが過去のレース映像を見て「早っ!」とコメントしたが、これは間違いなくニワカである。

競馬は勝負の駆け引きや、大相撲のような格の激突が主たるスポーツ(欧州の大レースはボクシングと比喩されることもある)であり、単純にスピードを競い合うものではない。その証拠に、日本ダービー有馬記念といった大レースの走破タイムが、当日行われた条件クラス(前座の更に前座のようなレース)のタイムとさほど変わらないか劣ることも珍しくない。人間で例えるならばオリンピックの短距離走の決勝の記録が、地区予選よりも劣るようなもので、これはあり得ない

脱線した。ディープインパクトが日本競馬の歴史上で最も強かったかと聞かれれば、私の答えは(・・しばらく悩んだ後の)ノーだ。

デビュー戦から規格外のレース振りで、古馬になっても馬体重が増えなかったことや、産駒たちの成長曲線の傾向を踏まえても3歳時に競走馬として既にほぼ完成されていたことは明白で、だからこそ、暮れの有馬記念で奇策を打たれたにせよハーツクライに敗れたのは大きい。

とはいえ、ハーツクライが本当に強かった期間は短く、レース数で言えば3、4戦に過ぎない。将棋の故大山康晴氏の言葉を借りればこれは「一時力」というものに近く、本当の強さとは継続できて初めて証明されるものだという観点からは、約2年間圧倒的支持を受けてそれに応え続けたディープインパクトハーツクライより遥かに強い馬だった

歴史上最も強かったとは言わないが、3本の指に入ることは間違いない。